「ルル」
「…できるか」
ずいと出されたグラスにはいつの間に刺したのだろうか、
真っ黒なアイスコーヒーにストローが沈んでいた。
「ダメよ、これはルルからわたしへの『お詫び』なんだから」
逃げ道を塞くようにシャーリーが言う、
アイスコーヒーを上まで吸い上げてはギリギリで戻す、
そんな行為を、顔を真っ赤に染めて繰り返しながら。
「ル ル」
「…今回だけだぞ。絶対、絶対だからな!」
「あは、うれしい」
例え紳士である俺とは言え、こう、いかにも!な甘酸っぱい行為は苦手なのだ。
ぶっちゃけ、恥ずい。
水着に着替えようと全裸になって、それがあまりにも開放的な気分だったから、
そのまま全裸で体育の水泳のプールに向かおうとして、スザクをはじめその他の
男子に取り押さえられるような俺であるが、こういうウブいのはダメなのだ。
耐性がついてない。
しかし、女の子のおねだりに弱い俺は、請われるままホイホイと了解しちゃったのだ。
口にストローを咥え互いに見詰め合う羞恥プレイ、ライアーゲームの始まりである。
シャーリーに促され、まず俺が恐る恐る吸い上げ始める。
ずごー
いつもは気にも止めないだろう空気による小さい音に、自分が気負ってしまってる事を
悟られたようで気恥かしくなる。
少しだけ飲んで口を離した。ストロー内を液体がすー、と戻り始める。
ほんの少しだけ、かさが増した。
それをただまんじりともせずに見つめる2人。
次はシャーリーの番だった。
両手はテーブルの下に組んだままおもむろにストローを咥える、視線は外さない。
ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
グラスの半分ほどのアイスコーヒーが一気に無くなる、吸い過ぎだ。
「無くなったな、半分」
「わざとじゃないよ」
自分が作り出したこの状況ながらも、テンパっていることが丸分かりだった。
しかし内心ありがたかった。
この空気は心に負担がかかりすぎる、できるだけ早く飲み終わりたい。
2手目、また俺の番が来た、シャーリーは…ストローを咥えたままだ。
初めてお互いが一緒に吸う形になる。
喫茶店に来た客は一々他人など気にはしないのは分かっているが、
それでも心臓が早鐘を打ち精神的落ち着きも無くなってしまう。
その中で席が丁度奥まったところにあったのは不幸中の幸いだった。
右手を髪をかくような素振りで不自然に掲げ、周りから隠すように飲み始める。
ずーーー
先程よりは飲めたがそれでも恥かしいのは相変らずで、吸うのを止めてしまった。
ふとシャーリーのほうを見ると俺と同じようにストローからアイスコーヒーが戻っていく。
俺に合わせて飲んでいたらしく2人のストローが、黒からピンクに変わり
またほんの少しだけ、グラスの中でかさを増した。
その後は何度も小口で一緒に飲んでいたが
ちゅーーーーーーーーーーーーーーーー
シャーリーが勢い良く吸ったのを最後に、中身の殆どが無くなった。
現金なもので、無くなりかけると何故か勿体無く感じる。
そもそもシャーリーは飲み過ぎだ、5/7は彼女が飲んでしまったのだ。
後には数個の氷と、底に残ったアイスコーヒー、それも氷が少しづつ溶けていくものだから
どんどん色が薄まっていく。
再度増えていくかさに、彼女がまた「ちゅー」と、今度は少しだけ吸う。
溶けて増える度に、かわいらしい音が響いた。
それがしばらく繰り返されたえた頃、悪戯心が俺の頭に沸き起こる。
まだ俺もストローを咥えていたので不自然さは無かったと思う。
氷が溶けるのに混じって、口に含んだ唾液がストローを伝っていった。
アイスコーヒーだった残滓は、グラスの中で少し不自然にそのかさを増す。
シャーリーは全く気付かないようで、ちゅーちゅと啜る音だけが響いている。
口の中で溜まっては流し、また溜まっては流す。
未だに気付かないでちゅーと啜るシャーリー。
自分の一部を無条件に、無自覚に受け入れさせているという背徳感、
かくれんぼをしている時のように
いつまで鬼から見つからずに隠れていられるかというのにも似た興奮に激しい快感を覚える。
テーブルの下では子ルルーシュがズボンを突き破らんばかりに、苦しいほど張り詰めていた。
それから程なくして凍りは完全に溶け去っていた。
「ほら、全部飲めよ」
じゅるるるる
「もうコーヒーの味がしないよ」
見れば彼女は咥内でくちゅくちゅと『アイスコーヒーだったもの』を味わっている。
その息が荒いと感じたのは、きっと俺の勘違いだろう。
顔がもうカレンの髪の色ぐらい真っ赤に染まっているのも気のせいだ。
そういえば、カレンをここ最近学園で見ていない。
あの内面を表しているかのような、けしからんおっぱいをまた見たいものだ。
学園では病弱設定で猫をかぶっているが、胸は口ほどにものを言う。
生来の気の強さは隠しきれておらんよ!
話が逸れた。
ともかく、
シャーリーはなかなか微妙に減らないアイスコーヒーから、俺の悪戯に気づいたようだ。
だが、明らかに顔色がやばくなってきているような・・・。
先ほどまで危険なくらいに赤かった顔色が、だんだん青白くなってきた気がする。
しかも、頬袋があるかのように頬を膨らませ、前かがみで、口元をかわいらしい
フリルのついたハンカチで押さえている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もしかしてあれですか?
横山光輝先生の著作で見かける
「げぇーっ!」
ってやつですか?
「出ゆ」
「…やっぱり?」
「もう、ダメ」
その意味が現実のものとして理解せざるをえなくなった時には、既に時遅い。
「ちょ…おまっ!?」
や、や、やばい!!何かうけるもの、うけるものはないか!!
とかやる暇もなく、
「(ピ―――――――――――)」←フェネット嬢のプライド保全のため、
ふせさせていただきます。
「ゴォ~~~~~~ルッ!!!」
怒涛の奔流の中、そんな声が聞こえたような気がした。
シャーリー、
今朝か昨晩はお好み焼きを食べたのかい?
それとも、もんじゃかな?
日本文化を愛している俺としては、君も日本料理を嗜んでいるというのは
非常に喜ばしいことだ。
まあ、こんな状況ではどうでもいいことだよね。
それよりもこのデートの結末をここで終わらせてもよいものかどうか、ってことだ。
俺たちは本来、この後水族館に行く予定だっただろ?
君の父親のつてでもらったといって、新開館の水族館のチケットを見せてデート
に誘ったのは君のほうだが、
このままブッチして女性に恥をかかせるわけにはいかない。紳士として。
そんな時、ふいに、いつか受信した電波文が頭をよぎった。
「俺は・・・世界を・・壊し、世界を・・・創る」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
つづーく(最低な感じで)